「明烏(あけがらす)」という古典落語がある。堅物の若旦那(だんな)を柔らかくしようと、父親の友人がだまして江戸・吉原の遊郭に連れて行くという話で、名人と呼ばれた八代目桂文楽の十八番だった▼この噺(はなし)が「時局にそぐわない」として口演禁止になった。日米開戦の直前のことだ。落語界は明烏をはじめ「五人廻(まわ)し」「木乃伊(みいら)取り」などの花柳界や酒に関する噺、廓(くるわ)噺五十三演目の自粛を決めた▼東京・浅草の本法寺に建立された「はなし塚」に台本などが納められたのは一九四一年十月。塚は空襲にも残り、敗戦後の四六年九月、落語家たちが復活祭を開いて、封印を解いたという▼二度と禁演落語をつくらないようにしようと、同寺の本堂できのう落語会が開かれた。台風が近づく激しい風雨の中、熱心な落語ファンが桂平治さんによる明烏の熱演に耳を傾けた▼衆院選で圧勝した民主党がつくろうとしているのは、はなし塚ならぬ「脱・霞が関塚」なのかもしれない。自民党政権の下で長年続いた「官僚依存」や「天下り」「時代に合わない無駄な公共事業」などをどんどんぶち込む作業が始まりそうだ▼台風11号が接近した関東地方はきのう一日中、大荒れの天気だった。選挙当日なら、棄権する有権者も多くなり、投票率も下がっただろう。鳩山さんには、天も味方したのだろうか。ずぶぬれになりながらそんなことも考えた。