小売業やサービス業にとって怖いのは、不満があっても黙って立ち去る客である。何が気に入らないのか言ってくれないと改めようがない。二度と利用してくれないだけでなく、口コミによる「あの店は駄目だ」という悪評が恐ろしい。
▼その点、常連客はありがたい。多少のことは大目に見てくれるし、気がついた問題を指摘してくれる。だが上得意に頼りすぎると商売は拡大しない。明治期に三越の基礎を築いた経営者の日比翁助は「商売繁昌(はんじょう)の秘訣」のなかで「ひやかし客を大切にせよ」と述べている。ひやかし客の多い店ほど発展するという。
▼見るだけの客も気持ちよく帰せば、「三越に初めて行ったが、待遇がよかったとか、買い物をしないが丁寧に取り扱われたという評判を立てられる」。好印象を持った客はいずれ買い物に必ず来てくれるという読みだ。選挙を単純に一緒にはできないが、いわゆる無党派層の動向が重要になっている点は似ている。
▼後援会や支持団体などと接点のない人の心をつかまなければ当選は難しい。東京など都市への集中が進んでいるうえに今や非正規社員が被雇用者の30%を超す。誰かに恩義があるからといって投票を決める人は減る一方だろう。民主党も承知と思うが、無党派層は失望すれば、簡単に離れていく怖い有権者である。