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棚田を保存する運動に加わって、週末の一日、実った稲を刈り取った。日照不足が心配だったが、稲穂は黄金色に輝いて頭を垂れている。ざくざく鎌を動かすと、さまざまな生き物が驚いて動き出した▼大小のバッタがあわてて跳びはねる。嫌われ者のカメムシは逃げ足が鈍い。ヤゴの抜け殻が残っているのは、トンボに変身したのだろう。イモリもいる。カマキリは「なにを!」とにらみつけてくる。「蟷螂(とうろう)の斧(おの)」とはよく言ったものだ▼田んぼに水が張られている時期には、「にごっている田はよく実る」と言われるそうだ。小さい魚や虫たちが動き回るから、煙幕を張ったように水がにごる。つまり「生物多様性」の恩恵にあずかりながら、稲はすくすく育つというわけだ▼地球上の様々な動植物は互いに結びつき、バランスを保ちながら生きている。それを言う生物多様性という言葉だが、「聞いたこともない」という人が6割以上にのぼるそうだ。内閣府による最近の調査でわかった▼小社は今年、豊かな自然を残す「にほんの里100選」を選んだ。全国から4千を超す応募があったが、それらの応募文の中にも生物多様性に関する言葉はごくまれだったという。堅苦しい漢字で記す、まだまだなじみの薄い造語らしい▼きょうから9月。長雨がちだったこの夏は、猛暑の年には挨拶(あいさつ)のように口にした「地球温暖化」もあまり聞かれなかったようだ。経済も、利便も、環境も、とは欲張れぬ時代である。小さきもののかざす「斧」を思い出しつつ、人間の暮らしを省みる。