総務省の情報通信審議会が通信と放送に関する法体系を抜本的に改めるよう求める答申をまとめた。日本は放送番組のインターネット配信が欧米に遅れるなど、法体系の複雑さが情報の流通を阻害している。新しいデジタル情報サービスをはぐくむように法体系を見直すべきだ。
通信と放送に関する日本の法律は地上放送や有線放送など設備ごとに定めており、主なもので9本ある。通信と放送を明確に分けるなど縦割りの規制となっており、新技術が登場するたびに法律を追加してきたため、複雑な体系になっている。
答申は来年でちょうど60年を迎える現行法体系を一本化し、通信と放送の垣根を取り払おうという提案だ。規制も縦割りから横割りに改め、放送番組などの「コンテンツ」、地上放送や衛星放送などの「伝送サービス」、通信網などの「伝送設備」といった階層でくくる。総務省はこの答申を受けて、新法の案を来年の通常国会に提出する計画だ。
法案が成立すれば、これまで放送局が一体的に行ってきた番組制作と送信業務をそれぞれ別の会社でできるようになる。地方局が系列を超えて送信設備を共同で利用することも可能だ。放送波の空き部分を使い、放送局が番組を携帯電話などに通信として配信できるようにもなる。
答申内容は規制緩和の流れに沿っており、法案も放送局や通信会社の経営の選択肢を増やす内容になる見通しだ。審議会の議論ではネット配信にも放送と同様の規制をかける案があったが、見送った。当然だ。
海外では米国が1996年の通信法改正で通信と放送の相互参入を認めたことから、メディア業界の再編が加速した。フランスは日本の答申と同様、サービスや伝送設備など階層ごとに規制している。韓国も法体系の一本化を進めており、日本も見直しを急ぐ必要があろう。
通信と放送法の改革論議は小泉政権時代に始まった。地上放送がアナログからデジタルに移行する2011年を「完全デジタル元年」と位置づけ、法体系の見直しを政府与党で合意した。衆院選でどの政党が政権に就いても、今回の答申は基本的に尊重すべきである。
縦割りの法体系見直しという点では、新法と著作権法との調整も必要だ。著作権法は放送番組の再配信を放送とネットで明確に分けている。新法ができても著作権法が壁となっていてはコンテンツの自由な流通は望めない。今後は総務省のほか、経済産業省や文化庁など省庁の壁を超えた改革論議も必要になる。