消費者行政の司令塔となる消費者庁が一日に発足する。業界別の縦割り行政を一新し、生活者の側に立った行政に道を開こうという官庁の誕生だ。これまでの行政の発想を捨ててもらいたい。
各政党のマニフェスト(政権公約)は、自民、民主ともに相談体制の充実を挙げるなど、消費者行政の強化では一致している。
その切り札と期待されるのが、選挙直後の九月一日に発足する消費者庁だ。民主は「官僚の天下りは許さない」として長官人事の見直しを明言しているが、消費者庁自体は与野党の全会一致で設置を決めた。選挙結果にかかわらず、消費者行政の要となろう。
ガス湯沸かし器事故や食品偽装などが相次いだことを受けて誕生する消費者庁は、各省庁に分かれていた消費者行政を集約することになる。単なる各省庁の調整役では困る。重要なのは、市民の目を持つことだ。従来の消費者行政は、各省庁が持ち場の業界を指導することで、結果として消費者が救済されるという「反射的利益」の考え方が目立った。消費者の直接利益を考える行政への転換が求められる。
具体的には、消費者が気軽に相談できるネットワークの構築が急務だ。まず、国民生活センターを中心にした各地の消費生活センターの相談機能の強化。相談窓口さえない自治体があり、相談員も不足している。地方への支援が欠かせない。また、警察や病院なども含めた各機関から提供される被害事例から問題を読み取り、すぐ消費者に情報提供することが重要な任務だ。寄せられた情報の全面公開も検討すべきだろう。
大事なのはスピードだ。こんにゃくゼリーによる窒息死事故では、所管する官庁がないため被害が拡大したといわれる。同様の被害があった欧州では、欧州委員会が二〇〇二年に販売停止を命令した。見習ってもらいたい。
被害を事前に防ぐために、各省庁の先頭に立って法整備や指導にも当たってほしい。例えば、長年被害が相次いでいるマルチ商法や多重債務の問題では、少しずつ前進はみられるが、抜本的な解決には至っていない。消費者の視点から法改正を主導すべきだ。
そのためには専門性の高い人材の確保、養成が課題となる。職員二百人、貸しビルの事務所からスタートすることになるが、官民の枠にとらわれず人材を登用し、新しい官庁の姿を示してほしい。
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