HTTP/1.0 200 OK Server: Apache Content-Length: 56505 Content-Type: text/html ETag: "fe199-1211-e434dec0" Expires: Thu, 27 Aug 2009 23:21:13 GMT Cache-Control: max-age=0, no-cache Pragma: no-cache Date: Thu, 27 Aug 2009 23:21:13 GMT Connection: close 8月28日付 編集手帳 : 社説・コラム : YOMIURI ONLINE(読売新聞)



現在位置は
です

本文です

8月28日付 編集手帳

 総監督は島津保次郎、開会式は溝口健二、閉会式は衣笠貞之助…撮影の分担が決まっていく。「おれは三段跳びだ」と32歳の小津安二郎が名乗り出た。メダルの有望種目を狙ったらしい◆戦争で実現を見なかった1940年(昭和15年)東京五輪の4年前、幻と消えた記録映画の構想を仲間と練ったときの話であると、映画監督の稲垣浩さんが回想の著書に書き留めている◆山中貞雄が「水泳はわしがやる。誰にも譲らん」と宣言し、金づちのくせにとからかう声にも、「言うな、泳ぐのは選手や」と言い張った。心の弾みを伝える語らいは、戦前の映画人を明るく照らした最後の灯であったかも知れない◆やがて山中は遺作「人情紙風船」を撮り終えて応召し、中国河南省で戦病死した。享年28、「夭折(ようせつ)の天才」といわれる人の、今年は生誕100年にあたる◆幻の無声映画「(ねずみ)小僧次郎吉 道中の巻」の一部フィルムが見つかったという。山中作品のほとんどが散逸したなかで、貴重なものだろう。記録映画といい、作品群といい、未完のまま断ち切られた才能の大輪といい、「幻」に縁のある(かな)しい人である。

2009年8月28日01時16分  読売新聞)
現在位置は
です