衆院選の立候補者から応援演説を頼まれ、ついうっかり口が滑ったというのではあるまい。元航空幕僚長の田母神(たもがみ)俊雄氏が奇妙な発言を繰り返している▼広島市の平和記念公園で六日に開かれた式典の参加者について、「被爆者も二世もほとんどいない」「日本弱体化の左翼運動」などと発言したのだ▼本当に被爆者や遺族不在の式典なのだろうか。広島市に聞いてみると、会場には一万二千人分のイスを用意し、被爆者や遺族のための席は二千五百人分。当日はその席はいっぱいになった。一般席に座っている被爆者の姿も多くあった。式典の参加者は立ち見の人などを含めて約五万人だったという▼田母神氏がどんな根拠で発言したのかは分からないが、明らかに事実と違うことを意図的に繰り返しているなら、扇動者と呼ばれても仕方ないだろう▼被爆者の心情を逆なでするとの批判がある中、田母神氏は式典と同じ六日、原爆ドームから徒歩数分の場所で「ヒロシマの平和を疑う」と題して講演。「核が廃絶されることは絶対ない。日本は三度目の核攻撃を受けないために核武装するべきだ」と持論を展開、約千三百人の参加者から盛んな拍手を浴びた▼田母神氏が核武装を主張するのは自由だ。支持者も多いと聞く。議論は大いにやればいい。しかし、平然とうそをまき散らすなら、主張は説得力を失うだろう。