異色の元検事が先月七十六歳で亡くなった。札幌高検検事長などを歴任、退官後に参院議員を二期十二年務めた佐藤道夫さんだ▼一九九二年の東京佐川急便事件で、金丸信自民党副総裁を事情聴取せずに略式起訴した検察捜査に対して、現職の検事長の立場から厳しく批判した硬骨ぶりは知られている▼記憶に残るのは、七二年の外務省の機密漏えい事件で、元毎日新聞記者の西山太吉さん(77)の起訴状に「ひそかに情を通じて…」という表現を盛り込んだことだ。沖縄返還交渉をめぐる密約の有無は男女のスキャンダルにすり替わった▼西山さんは退社して郷里に戻った。二〇〇〇年に密約を裏付ける米国側の資料が見つかるまで「精神的な牢獄(ろうごく)」にとらわれた長い日々が続いた▼沖縄密約問題をめぐって新しい動きがあった。密約文書の開示を求める訴訟で返還交渉の責任者だった外務省元アメリカ局長の吉野文六さん(91)が原告側の証人として出廷することがきのう事実上決まった。東京地裁に提出した陳述書で、吉野さんは「秘密交渉も一定期間を過ぎれば原則公開すべきで、相手国が公開した文書まで秘密にする必要はない」と言い切る▼日本国内への核持ち込みをめぐり、外務次官経験者が相次いで日米間の密約を認め始めた。多くの密約で国民を欺いてきた対米外交の歴史は、やっと白日の下にさらされる。