厚生労働省は新型インフルエンザ用ワクチンの必要量の確保を急ぐ必要がある。同時にワクチンの効果や副作用の情報を今のうちから、正確に、わかりやすく伝えるべきだ。
ワクチンの必要量は約5300万人分とされる。これに対し、新型ワクチンの年内の国内生産量は1300万〜1700万人分にとどまる見込みだ。新型のウイルスが、製造設備の中で思いのほか増えないのが原因というが、根底には国内のワクチン製造能力が、欧米に比べて貧弱である現実がある。
国内供給だけでは不足することは初めからわかっていた。厚労相は輸入の検討を指示したが、まだ調達先すら決まっていない。本格的な流行を迎え、対応が後手に回った。
不足分をどう賄い、限られた量をどのような優先順位で接種すべきかの議論は始まったばかり。厚労省が医師や患者団体らを集め、意見交換会を開いたのは、国内で感染拡大が勢いを増し死亡者が出た後だ。英国やオランダなどは全国民分のワクチンを確保する方針だ。米国は当初の計画を国内で調達できないという。国際的なワクチン争奪が始まる心配がある。
ワクチンは万能ではない。毎年の季節性インフルエンザのワクチンは感染の予防にあまり効かないとの指摘もある。だが感染しても病状が重くなるのを防ぐ効果がある。ワクチンが国民の健康と生命を守る重要な手段になりうるのは間違いない。
慢性疾患を抱える患者は、重症化の危険が大きく、優先して接種するのが望ましい。重い症状に陥ることがある子どもへの接種を望む親は多いに違いない。接種の優先順位は重い判断を伴う。厚労省はもっと広く意見を聞いてもいい。
接種を任意とすることだけは、厚労省は明確だ。接種の判断は個人の自己決定に委ねるという。それならば、国民はワクチンの効果や副作用について十分に知り、リスクをわきまえて判断しなければならない。
過去の予防接種被害の歴史から、ワクチンに不安を持つ人は多い。厚労相が言うように、緊急措置として、国内治験を省略して外国製品を輸入するなら、なおさらだ。接種開始後に慎重に経過をみる必要もある。