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天声人語

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2009年8月26日(水)付

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 48枚ある花札に、なぜか平安朝の書家、小野道風(おのの・とうふう)が描かれている。柳に跳びつく蛙(かえる)を眺める図である。失敗を続けてやっと跳び移った姿に打たれ、ますます励んで名をなしたという逸話は、真偽はさておき日本人の好みに合うようだ▼その道風も驚くような「空飛ぶ蛙」がヒマラヤ山系で見つかったと、先ごろの小紙が伝えていた。鳥のように飛ぶのではない。発達した後ろ脚の膜を使ってムササビのように滑空するというから、いわばグライダーである▼ヒマラヤの地形は険しく、人跡はまれだ。調査をした世界自然保護基金によると、この蛙をはじめ350以上の新種の動植物が見つかったという。薄目を開けて哲学者ふうな蛙の写真は、とうとう人間に発見された不幸を嘆いているように、見えなくもない▼やかましく騒ぐことを「蛙鳴蝉噪(あめいせんそう)」という。だが世界的に「蛙鳴」は細る一方らしい。開発に追われ、農薬に脅かされ、感染症の追い打ちも受けて蛙族の受難は進む。水陸双方で生きられるというより、水陸両方がないと生きられない弱い生き物なのだという▼蛙の詩で知られる草野心平は、その姿に生命の賛歌を見た。だが死の悲しみも書き残している。〈しづかにすすむ一列の。ながい無言の一列の。蛙の列がすすんでゆく。ひたひに青い蛍をともし。万の蛙等すすんでゆく……〉。蛙の葬送を空想した一節である▼なじみ深い水辺の隣人を、我々は相当に追いつめていると専門家は憂えている。悲しい葬送への加担を続けていては、道風先生にも合わせる顔がない。

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