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天声人語

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2009年8月23日(日)付

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 秋を出迎えに、栃木県北部の那須高原を訪ねた。小さな人造湖を涼風が渡り、リンドウの青い花を揺らしていた。水面に張り出した桜の枝先には、ちらほらと赤トンボ。羽の両端が黒い▼帰路、鬼怒(きぬ)川に寄った。つり橋のワイヤに、別の種類の赤トンボが列をなしている。欄干の一匹にそっと指を近づけると、何のつもりか飛び移ってきた。逃げもせず頭をひねる姿が愛らしく、左手でカメラに収めた▼「赤トンボ」という種はいない。日本に20種ほどいるトンボ科アカネ属の総称という。写真を調べてみたら、鬼怒川の愛敬者はアキアカネだった。代表的な赤トンボで、真夏は高地にいて、涼しくなると里に下りてくる。稲穂の上を群れ飛ぶ、秋の使者である▼田んぼで繁殖し、害虫を食べるアキアカネは、長らく人間と共栄の関係にあった。人なつこい習性もそれゆえだろう。ところが農業の衰勢を映してか、各地で減少が伝えられる▼全国で生態調査を続けるNPO法人「むさしの里山研究会」代表の新井裕(あらい・ゆたか)さんは、著書『赤とんぼの謎』(どうぶつ社)で「やがて、赤とんぼを見ても何の思い出も持たない人々でこの国は覆われてしまうのか」と案じた。アキアカネが舞う田園風景は日本人の心のふるさとなのに、と▼農薬は実りをもたらした半面、赤トンボから餌と「仕事」を奪った。湿地が消え、休耕田が増え、温暖化が進み、トンボには生きにくい環境である。きょうは暑さがやむとされる節目、処暑。秋の使いが山を下りる候、小さな生き物との共存を考えてみたい。

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