HTTP/1.1 200 OK Date: Sat, 22 Aug 2009 01:18:17 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:ウサイン・ボルトが100メートルを何秒で走ろうと世界が変わ…:社説・コラム(TOKYO Web)
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【コラム】

筆洗

2009年8月22日

 ウサイン・ボルトが100メートルを何秒で走ろうと世界が変わるわけではない。不況も少子化も地球温暖化も相変わらず。急に年金が増えるわけでも、夏休みの宿題が片付くわけでもない▼それなのになぜだろう。ジャマイカ出身の、この陽気な二十三歳の記録への挑戦が、これほど人の心を揺さぶるのは。ベルリンでの世界陸上で、100メートルに続き、200メートルでも世界新を打ち立てた。後半100メートルのタイムは、実に9秒27!▼先の100メートルでは自己の持つ9秒69を一気に0秒11も縮めた。テレビの解説者によれば「本来は0秒01縮まって興奮する世界」。確かに過去の更新も0秒05ぐらいの短縮がせいぜい。文字通り「けた違い」である▼足が速いといえば、謡曲『舎利』にも描かれる、仏法の守護神、韋駄天(いだてん)を思い起こす人も多かろう。お釈迦(しゃか)様の骨を盗んだ鬼を追い、高さ八万四千由旬(ゆじゅん)(一由旬は十数キロ、百六十キロなど諸説)の須弥山(しゅみせん)の頂まで、瞬時に駆け上ったというから、これはもう恐ろしく速い▼だが、あちらは神様だ。いかに「超人」に見えようと、あの長身の青年は、われわれ六十何億人かの一人。漠然と行き詰まりを恐れている人類は、彼の走りに「まだ先に行ける」のメッセージを読み取っているのではあるまいか▼それにしても、「伝説になりたい」とは奇妙な本人の弁だ。とっくに、そうなっているのに。

 

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