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人それぞれではあろうが、上品な小ぶりのグラスでビールを飲むのはどうも味気ない。佳境に入ることなく底をついて、欲求不満ばかり残る。ちまちまと注(つ)ぎ合うのも興をそぐ。大ぶりの器で、ぐぐっと喉(のど)へ流す爽快(そうかい)が、あの酒の醍醐味(だいごみ)だろう▼中国の清代の政治家だった康有為に、本場ドイツのビアホールを詠んだ漢詩がある。〈三千の人 酔いて 飲むこと鯨の如し〉。壮観なさまをうたう詩句を、中国文学の一海知義さんの著作に教わった。飲むときはかくあるべし、のご同輩も多いのではないだろうか▼そのビール類飲料が、今年の夏は苦戦している。いまの統計を取り始めた92年以降、7月としては出荷が過去最低に落ち込んだという。大手5社のまとめだが、長雨あり低温ありの天候不順が響いたらしい▼「空腹」が料理の最高の調味料なら、ビールにとって最高の引き立て役は「暑さ」に尽きよう。技をきわめた日本産のキレとコクだが、お天道様の気まぐれには色あせるようだ。消費量世界7位の日本の鯨たちも、いまひとつ元気がない▼茨木のり子さんにこんな詩がある。〈どこかに美しい村はないか 一日の仕事の終りには一杯の黒麦酒(ビール) 鍬(くわ)を立てかけ 籠(かご)を置き 男も女も大きなジョッキをかたむける……〉。暑さばかりではない。「ひと汗」かいた充実もビールによく合うようである▼思えば庶民的ながら、ジョッキをかざせば祝祭的な飲み物でもある。天候が不順なら、ここはひとつ充実感か。自分の手で引き立てるなら、その味はまた格別かもしれない。