熱暑の最中(さなか)ながら、暦の上の季節に甘え、以下に二つの秋の歌を掲げさせていただく▼<道のべの紫苑(しおん)の花も過ぎむとしたれの決めたる高さに揃(そろ)ふ>大西民子。植物図鑑によれば、それは丈二メートルほどになるキク科の花だそうだ。今一つは、鮮やかなる秋の“破裂”を詠んだ歌。<曇天のくもり聳(そび)ゆる大空に柘榴(ざくろ)を割るは何んの力ぞ>浜田到▼そんな風に植物を眺められるのが歌人の感性なのだろう。けれど、紫苑や柘榴には同じことを感じられない野暮天(やぼてん)でも、ここまでの神秘となれば感じ入る。東南アジアや南米アマゾン川流域など洪水多発地帯に生育するイネの一種「浮きイネ」のことだ▼洪水になると、普通のイネ(丈は一メートル程度)は水没し枯死する。ところが、通常は同じほどの背丈のこのイネ、驚くべき振る舞いを見せる。センサー内蔵でもないのに水位上昇を感知。ただちに日に二、三十センチもニョキニョキ伸びて、葉を水面に出すことで生き延びるのである。<たれの決めたる><何んの力ぞ>…。少し神妙な心持ちになる▼名古屋大などの研究チームが、その、水位を感知し伸長する遺伝子を特定したのだそうだ。解明済みの「収量を高くする遺伝子」と組み合わせた新品種作出で、洪水地帯での食糧確保に貢献する道を探るという▼いわば、人が神とさせていただく“共同作業”であろう。成功を祈りたい。