「雨にも強くいつでも安心」「ズレ落ち防止機能付き」「素材は綿にビニール加工」。はて何の広告かというと、選挙用のタスキの売り込み文句だ。たしかにあれは立候補者の必需品。ある業者は「タスキは選挙の生命線」と物々しい。
▼衆院選が公示され、そんな特注品を着用に及んだ候補たちが駆け巡っている。思えば不思議な光景だが、タスキというのは記紀神話にも登場する古い言葉だという。それを肩に掛ければ神の代理として祭事を司(つかさど)ることができると信じられたらしい。木村紀子さんの「原始日本語のおもかげ」という本に教えられた。
▼残念ながら、目下の選挙戦では神に成り代わってまつりごとを引き受けようというほどの厳粛さは見あたらない。マニフェスト対決、とはいうけれど現場の候補者は自分の名前を投票用紙に書いてもらうのに必死の形相だ。連呼、絶叫、懇願が盛り場に住宅街に響き渡り、遅れてやって来た夏がますます暑くなる。
▼各地で接戦が伝えられるだけにそれも致し方ないが、タスキを掛けたからにはもう少し政治の夢を語ってもらえないものか。木村さんの著書によると古代にはネックレスのような玉ダスキというものもあり、こちらは人の心を吸い寄せる効果があったという。玉ダスキに掛け替える候補者が出てくるかもしれない。