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天声人語

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2009年8月19日(水)付

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 国や民族の苦難の歴史が、ひとりの政治家の人生に深々と刻まれることがある。元韓国大統領の金大中氏は、まぎれもなくそうした人だった。「波瀾(はらん)万丈」という言葉さえ軽く響く85年の生涯を、きのう静かに閉じた▼日本の統治時代に朝鮮半島南部の島で生まれた。以来、死刑判決などで5度にわたって殺されかけたという。6年を獄中で過ごし、40年もの間、軟禁と亡命と監視の中で生きてきた。その来し方は、平和と民主主義に守られて暮らす者の想像を超える▼3度目に死に直面したのが、1973年に東京で起きた「金大中事件」だった。白昼のホテルから韓国の情報機関に拉致され、5日後にソウルの路上に放り出された。軍政下の不気味な事件として、その名を日本人の記憶に刻むことになった▼大きな功績は、独裁体制を終わらせ、民主主義の定着に尽くしたことだろう。98年には勝ち得た民主主義の下で大統領になる。やはり政治犯から大統領に就いた南アフリカのマンデラ氏と並び称され、ノーベル賞にも輝いた▼筋金の入ったその生き方に、「権利のための闘争は、権利者の自分自身に対する義務である」という欧州の古い言葉が重なり合う。圧政の中で人生に刻まれた幾多の傷は、闘いを挑んだ向こう傷として、今では誇らしい勲章に違いない▼愛妻家でも知られ、「私は生涯を通じて異性を本当に愛したことがない人には魅力を感じない」と述べていた。巨星は墜(お)ちたが、生まれたばかりの雲になって、分断された民族の行方を見守っていることだろう。

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