HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Last-Modified: Mon, 17 Aug 2009 17:07:15 GMT ETag: "30f0fd-43f4-6efdd6c0" Content-Type: text/html Cache-Control: max-age=5 Expires: Tue, 18 Aug 2009 00:21:10 GMT Date: Tue, 18 Aug 2009 00:21:05 GMT Content-Length: 17396 Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
現在位置:
  1. asahi.com
  2. 天声人語

天声人語

アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

2009年8月18日(火)付

印刷

 「21歳。極致の数字をまだまだ縮めそうな、おそるべき雷光である」と、奇(く)しくも去年のきょう、小欄に書いた。雷光とは、北京五輪の男子100メートルを疾走したジャマイカのボルト選手である▼その稲妻が、1年ののちに再び駆け抜けた。ベルリンの世界陸上で出した9秒58は、途方もない世界新記録だという。2位になったライバル、ゲイ選手(米国)の談話がいい。「人間がこんなに速く走れることがわかった。残念ながら私じゃなかったが」。脱帽、ということだろう▼北京では快挙の半面、世界を残念がらせた。勝ちを確信したのか両手を広げて減速してしまったからだ。今度はゴールまで真剣だった。敗れた選手は、わずかな差が、千里を隔てたように遠く思われたに違いない▼国際陸上競技連盟ができた1912年、世界記録は10秒6だった。以来、人類は1世紀をかけて1秒余を縮めてきた。「たった」と思うか、「よくぞ」と見るか。ならせば年に約0.01秒。ともあれ、水滴が石をうがつような努力の賜(たまもの)だろう▼人類最速への興味は、車がどれだけ速くても薄れない。一編の詩が思い浮かぶ。〈ふくらはぎ 優しいなまえ 円柱のようにふくらみ静かだ その下のくるぶし 硬い果実のように丸い対偶 夢が仕掛けてあるのだ……〉(「走る人」沢口信治)。最速とは、人体の能力への、最も素朴な憧(あこが)れかもしれない▼次なる目標は9秒台の前半ということか。専門家によれば可能性はあるそうだ。人類未体験の領域に突き進む、「夢の仕掛けられた足」である。

PR情報