HTTP/1.1 200 OK Connection: close Date: Sat, 15 Aug 2009 21:18:55 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Age: 0 東京新聞:世界中から年間約百二十万人もの人が訪れ、アジアからの来訪者…:社説・コラム(TOKYO Web)
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【コラム】

筆洗

2009年8月15日

 世界中から年間約百二十万人もの人が訪れ、アジアからの来訪者が年々増加している世界遺産がある。答えはポーランドの国立アウシュビッツ博物館。広島の原爆ドームと並ぶ人類の「負の遺産」だ▼日本人で唯一の公式ガイドを務める中谷剛さん(43)はポーランド人の元収容者の言葉を来館者によく紹介する。「君たちに過去の戦争責任はない。ただし、将来それを繰り返さない責任はある」。戦争を知らない世代の胸に響く言葉だ▼沖縄の「ひめゆり平和祈念資料館」の語り部の女性たちが、次世代に語り継ぐ方法を探るためにアウシュビッツを訪れたのは六年前。自分の言葉で語る中谷さんの姿に勇気づけられたという▼若きひめゆり学徒たちを戦場に引率した故仲宗根政善琉球大教授は、四十年前の日記に「憲法から血のいろがあせた時、国民は再び戦争に向かうだろう」と書いた▼近ごろ、首相が主宰する「安全保障と防衛力に関する懇談会」が、専守防衛の基本政策を見直す報告書を提出したが、平和主義の転換を促す提言から、憲法に染み込んだ血の色は想像できない▼当然ながら戦争体験者は年々減っていく。戦後六十四年の総選挙で、戦争を肌で知る議員もごく少数になるに違いない。無名の庶民が絞り出す言葉をしっかりと受け止め、記憶の風化にあらがいたい。いまを新たな「戦前」にしないために。

 

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