HTTP/1.0 200 OK Server: Apache Content-Length: 56684 Content-Type: text/html ETag: "f347e-120d-52527040" Expires: Sat, 15 Aug 2009 03:21:15 GMT Cache-Control: max-age=0, no-cache Pragma: no-cache Date: Sat, 15 Aug 2009 03:21:15 GMT Connection: close 8月15日付 編集手帳 : 社説・コラム : YOMIURI ONLINE(読売新聞)



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8月15日付 編集手帳

 明治生まれの作家、安藤鶴夫の小説で、耳慣れない物言いに出合った。主人公が博打場(ばくちば)の若い衆に使い走りを頼む。「煙草(たばこ)がみんなになった」、買ってきてくれ、と◆辞書を引くと、あった。【みんなになる】=「全部なくなる。終わりになる」。賭け事や相場で「なくなる」「終わる」は禁句であり、忌み言葉の言い換えから生まれたのかも知れない◆新聞記者の舌に、この言い回しは苦い味がする。かつて「一億火の玉」で各紙が“みんな”一糸乱れず論調をそろえたとき、言論は死んだ。結束を乱すからと、敵を利するからと、異説・異論を排除し、「みんなになった」過去がある◆〈あなたが言うことには一切同意できないが、あなたがそれを言う権利は死んでも守ってみせる〉。劇作家ボルテールが語ったとも、後世の創作とも伝えられる。二度と言論を、国を“みんな”にしないための一歩は、その言葉の上に刻むしかない◆理があると思えば、情にかなうと思えば、合唱に声を合わせることがいまもある。そのときも、独唱の口を封じるような真似(まね)はすまい。筆をもつ端くれの、ささやかな誓いである。

2009年8月15日01時12分  読売新聞)
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