ミャンマー軍事政権が、民主化の象徴アウン・サン・スー・チーさんをさらに一年半、自宅軟禁することを決めた。来年の総選挙に参加させたくない本音がはっきりした。解放を強く求め続けねば。
一九九〇年の総選挙で圧勝し、民主政権を率いるはずだったスー・チーさん。それから二十年近くなるのに軍部は政権に居座り、とても罪に問えないような理由で十四年間も軟禁してきた。
今回の罪も、深夜に自宅前の湖を泳いで勝手に侵入してきた米国人男性が弱っているのを見かねて二日滞在させたことが、仰々しい国家防御法違反に当たる、というものだ。
特別法廷は強制労働を伴う禁固三年を言い渡したが、軍政は「独立の父アウン・サン将軍の娘」との理由で期間を半減したうえで、自宅軟禁に減刑した。温情を強調して国際社会の批判を和らげつつ、総選挙の実施を約束した来年中は軟禁が続くことになる。
はっきりしたのは、軍政が来年の総選挙に、スー・チーさんを参加させる意思のないことだ。ノーベル平和賞も受賞した「民主化の象徴」を排除した選挙が、この国の人々の望む民主的な選挙と言えるものか。
長年の指導者不在による民主勢力の足並みの乱れも心配だ。
スー・チーさん率いる「国民民主連盟(NLD)」は、スー・チーさんら二千人余の全政治犯解放を総選挙参加の条件にしている。しかし現状打開には軍政主導でも総選挙に参加すべきだという声があり、分裂の恐れすら聞かれる。
軍政は、親軍政の団体を分割して政党をいくつもつくり、見せかけの複数政党参加を準備中で、国会議員の25%は軍人に割り当てるという。民主勢力がたとえ妥協して参加しても、主張はとても通りそうにない。
軍政は国際的な声に「外国の不当な干渉」と反発する。しかし、判決直後、米国のオバマ大統領が「人権の普遍的原則を侵害している。政治犯は全員解放すべきだ」と強く非難したように、人権の不当な抑圧を国際社会が見過ごしていいはずがない。中国もアジアの大国としてこれまでの黙認の姿勢から転じる時ではないだろうか。
スー・チーさんは六十四歳。長引く軟禁で健康も心配だ。民主勢力を励ますためにも、国際社会として訴え続けたい。「スー・チーさんを解放し、すべての国民の参加が民主選挙の最低条件だ」と。
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