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天声人語

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2009年8月14日(金)付

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 じりじりと地を灼(や)く、炎暑に似合う花を思い描いてみる。夾(きょう)竹桃(ちくとう)、向日葵(ひまわり)、さらに百日紅(さるすべり)といったところか。それら夏の花々をアゲハ蝶(ちょう)がまつわり飛ぶ図には、どこか艶(なま)めかしい趣がある▼そのアゲハの幼虫、柚子坊(ゆずぼう)のことを先日書いたら、思いのほか多くの便りをいただいた。「緑濃き下蔭(したかげ)を舞ひ黒揚羽(あげは)〈危険な関係〉を愉(たの)しむごとし」と、東京の篠塚純子さんはかつて詠んだ歌を送ってくださった。庭では毎年、アゲハが生まれるそうだ▼仙台の池沢祐子さんからは、羽化した黒アゲハの美しい写真が届いた。庭木の柚子坊が次々に鳥に食べられるのを見かね、5匹を網の中へかくまってユズの葉を与えたそうだ。育った蝶は外へ放したという。嫌われがちな柚子坊も、やさしさに感謝だろう▼便りは女性からが大半だった。昆虫といえば少年の専売のようだが、王朝文学の「虫めづる姫君」のDNAが連綿と流れているのだろうか。とはいっても、客観写生を説いた俳人の虚子に〈命かけて芋虫憎む女かな〉の一句もあるから、世の柚子坊よ、油断は禁物かもしれぬ▼わが家の鉢植えミカンの柚子坊は、鳥の目をかいくぐってサナギになり、地震で揺れた朝に羽化した。黒地に黄色のナミアゲハだった。ナミは「並」。ありふれたゆえのやや失敬な名だが、蝶のあずかり知らぬことである▼柚子坊を育て上げた木は葉がだいぶやられた。ピンポン球ほどの青い実を涼しげにぶら下げて、ひと仕事を終えた風情で日を浴びている。寒くなれば色づいて、かくて季節はめぐっていく。

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