落ち着いた議論ではあったが、掘り下げ不足の印象が否めない。衆院選直前の麻生太郎首相と鳩山由紀夫民主党代表の党首討論。政権を争う両トップは、有権者の聞きたい点をもっと語れ。
国会論戦とは趣を変え「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)の主催で行われた。出来たてのマニフェスト(政権公約)を武器に「次期首相候補」同士が論を競うのは好ましいことである。
問題は、有権者が政権選択を判断する材料を十分に提供できたかどうか、だ。ライバルの批判に熱を入れる一方で、自らの政策を丁寧に説明しようとする姿勢に、双方とも欠けていたように映った。
積極的な財政出動で経済成長を図り、経済のパイを大きくして家計に分配するという自民と、予算の無駄遣いをやめ、家計への直接支援で内需拡大を目指す民主。討論では、経済政策のアプローチの違いが鮮明になった。
首相は民主の目玉政策である子ども手当を「財源なきバラマキは無責任だ」と切り捨てた。鳩山氏は国の予算を組み替え、政策に優先順位を付けることで、新規政策の財源は確保できると反論した。
当然、実行できなくなる政策も出てくるので、国民生活に影響を与えるだろう。この点の説明が不十分だ。野党が財源論を詰めるにはハンディがあるとはいえ、有権者の懸念に真正面から向き合うことが肝要だ。
一方、鳩山氏が十年後の家庭手取りを百万円増やすとした自民公約をただしたのに対し、首相は「目標を掲げて努力する」と“精神論”で片付けたのはいただけない。格差拡大を招いた四年間の自公政権の反省と総括についても「前回マニフェストはかなり実現できた」と自賛しただけだ。
鳩山氏の突っ込み不足の面もあるが、有権者が聞きたい肝心な部分をかわしては、緊迫感のある党首対決になるはずもない。
もっと聞きたかったのは、将来の国のかたちをどう考えるかだ。マニフェストには多くの政策が盛り込まれているが、その結果、どんな社会を目指すのかという、ストーリーが読み取れない。
リーダーの生の言葉で堂々と訴えてしかるべきテーマだ。国民からかじ取りを託される者の責務でもある。これをないがしろにしては「政権選択」決戦の意味合いも薄れてしまう。肝に銘じてほしい。
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