まだ「学問の神様」になる前の話だ。八七〇年、二十代半ばだった菅原道真は最高の国家試験である「方略試」を受験した。文章(もんじょう)博士(はかせ)の都良香(みやこのよしか)が出した問題の一つは「地震を弁(わきま)えよ」▼道真の解答に対する、良香の評価は<地震の起きる理由が押し極められておらず…振動は大亀が六万年に一度の交代で生じるとこじつけ…>などと辛口。もう一問の解答と併せ、文章は良く書けていると一応、合格にはなったが、道真はしょげたという(寒川旭著『地震の日本史』)▼きのう朝、駿河湾を震源とする大きな地震が静岡県など東海から関東地方を激しく揺さぶった。最大震度6弱。多数の負傷者に加え、東名高速道路の一部の路肩が崩落するなどの被害も出た▼場所が場所だけに「東海地震か」と恐怖した人が多かったのは当然だろう。だが、専門家は結びつきはないとの見解だ。これで想定される巨大地震のエネルギーが少し解放された、という話でもないようである▼良香がどんな解答を求めていたのか知らないが、地震発生のメカニズムは、道真の時代から時を経て、ずいぶん科学的に解明されたのは確かだ。しかし、予知ができないという点では昔と大差ない▼東海地震もいつ起きるかは分からない。それとても科学の成果なのだが、分かっているのは、ただ「もう、いつ起きてもおかしくない」ということだけである。