北海道・大雪山系遭難事故の後だけに少し気後れはしたものの、前から計画していた登山に出かけた。目指すは穂高連峰・西穂高岳。
ロープウエーで標高2100メートル付近まで運んでもらい、出発。相変わらず山は中高年が多い。大半が60代以上だろうか。行方不明の70代の女性を捜すポスターが目に入る。山ではこうした掲示が珍しくない。
目的地は山頂手前の「独標」と呼ばれる小ピークで標高2701メートル。高低差600メートルほどだからと気楽に考えていたが、きつい。アップダウンが予想以上に多いのだ。山はやはり実際に歩いてみなければ分からない。
後になり、先になり、20人ほどのツアーと一緒に登っていく。年配者の中には初心者と思える人もいる。登山ガイドは様子を見ながら体調を尋ねる。結局、5人ほどに途中で居残って帰りに合流するよう命じた。他のツアーも同様だ。教訓は生かされていた。
最後の数十メートルは文字通りの岩登りだった。両手両足をフルに使って岩に張り付く。落ちれば命はないだろう。夢中で登り切ってひと息ついたあと、眼下に広がる上高地の絶景に気づいた。
登山には常に危険がつきまとう。ただ肉体的苦痛を我慢するだけでは達成感は得られない。登りで感じた年齢相応の筋力の衰えを意識しつつ、慎重に岩場を下りた。