著作権法や国立国会図書館法の改正により日本でも電子図書館構想が動き始めた。米国では検索大手のグーグルが図書館と一緒に出版物の電子化を進めている。フランスなど欧州でも電子図書館構想が進んでおり、日本でも基盤整備が急がれる。
計画では国立国会図書館に納本された出版物を作者や出版社など権利者の許諾を得て電子化し、外部から閲覧できるようにする。電子データの配信は国会図書館とは別に公的な組織を設け、有料で行う。一部は権利者に還元し、残りをシステムの運用に充てようという構想だ。
出版物の電子化は日本では国会図書館の蔵書が損傷しそうな場合に認められてきた。一方、最近の欧米の計画は新刊本も電子化し、インターネットで閲覧できるようにするという内容だ。法改正で日本も出版物を納本後すぐに電子化することが認められたため、原本を完全な状態で保存し、電子データを多くの国民が利用できるようになる。
国会図書館の年間の電子化予算は1億円前後だが、今年度補正予算で約100倍の127億円が認められた。現在、明治・大正期の約15万冊の電子データを公開しており、新たに蔵書の4分の1にあたる1968年以前の約90万冊を電子化する。
電子図書館構想はこうした過去の出版物に加え新しい作品も電子化する計画だが、課題もある。まず国民の利便性を重視するあまり、出版事業が成り立たなくなっては本末転倒だ。閲覧方法や料金設定は出版社の経営にも配慮する必要があろう。
技術の選別も重要だ。電子化した記録方式が変わって、後で閲覧できなくなっては困る。現在は書誌情報や各ページの画像情報しかないが、今後の検索利用を考えれば、本文のテキスト化も求められよう。
将来的には出版と同時に電子データを自動的に納本できる仕組みが求められる。127億円は電子化作業が対象だが、そうした将来の基盤整備に一部を充てる工夫も必要だ。
グーグルの電子図書館は裁判で日本の出版物も含まれることが決まった。同社に協力する日本の出版社も現れたが、ネット時代に日本として文化の維持継承を図るなら、早期に国内基盤を整備する必要がある。