<盆よ盆よと春から待ちて、盆が過ぎたら何よ待ちる>。長野県阿南町に伝わる国重要無形民俗文化財で、日本の盆踊りの原型とも言われる、「新野の盆踊り」(十四日から)の歌の文句だ▼お盆の休みは、行楽だけでなく、ふだんは離れて暮らす家族が久しぶりに集うことの多い時期。子や孫、あるいは、じいちゃん、ばあちゃんの顔を見るのが楽しみで<盆よ盆よ>と待っていた人も多いに違いない▼生保会社の調査によれば、今年は夏休みに「帰省する」と答えた人が39%を超え、昨年より13ポイント近くも増えたのだとか。高速道路のETC割引や、不況による節約ムードが影響したようだが、その分、笑顔が増えるのは確かだろう▼ふと思い出したのは、少し前、NHKの朝の連続ドラマ『つばさ』で実家を出なくてはならなくなったヒロインが、涙で見送る母に言った、確かこんな台詞(せりふ)。「帰る場所があるから出て行けるんだよね」▼人口の都市集中や地方の地盤沈下が言われて久しい。「限界集落」の言葉も耳になじんだ。仕事のため都会に出て同じ理由で故郷に戻れない。やがて親が亡くなり実家は空き家、廃屋に…。地方の危機とは、日本人が続々と「帰る場所」を失っている、ということなのではあるまいか▼なかなか帰省できない人もいよう。でも重要なのは多分、「帰る場所」がある、ということなのである。