英国映画の名匠キャロル・リード監督の作品に「落ちた偶像」(1948年)がある。少年の目を通して大人の屈折した世界が描かれる。
アイドル少女から結婚、出産を経てなお清純、まじめなイメージで人気を保ち続けたタレントに何が起きていたのか。ファンだけではない。子どもの目にどう映るのだろうと思うとやりきれない。酒井法子容疑者の逮捕が社会に衝撃を与えている。
自宅マンションに覚せい剤0・008グラムを所持していたのが直接の容疑だ。自宅からは吸引用とみられるストロー数十本と器具も見つかった。付着物のDNA鑑定は本人と一致した。警視庁は使用した疑いもあるとみている。
ファンの多い中国や香港、台湾、韓国などアジアのメディアも連日速報しているという。内外での過熱報道は、偶像と実像の落差の間に薬物が潜んでいた驚きでもあろう。
警察庁によると、覚せい剤の使用や密売、所持での摘発は薬物事件全体の8割近くを占め、大麻事件の4倍に当たる。そして摘発人数の5割以上が暴力団関係者だ。製造原価が安いため資金源になっているとみられる。
芸能界だけでなく、ありふれた日常の闇に浸透する薬物は、心をむしばみ、友達や家族を奪い、最後は自らの体を殺す。今回の事件を社会への大きな警鐘としたい。