総合化学首位の三菱ケミカルホールディングスが合成繊維大手の三菱レイヨンを買収する方向になった。三菱レイヨンは世界シェアが1位や2位の事業を持つ。三菱ケミカルは資金力でそれらをより強くできる可能性がある。産業再編は素材業界でも規模拡大に加え、成長力のある事業の創造が主眼になりつつある。
三菱レイヨンは液晶パネルなどに使われるアクリル樹脂原料の有力メーカーで、5月に英化学大手ルーサイト・インターナショナルを買収して世界シェアが首位になった。航空宇宙用などの炭素繊維は世界2位のシェアを握る。いずれも中長期的に需要の伸びが期待できる。
そうした有望な事業を強化し、企業の国際競争力向上につなげようと両社は考えたのだろう。
欧米の化学会社は相次ぐM&A(合併・買収)で巨大になり、コスト競争力を高めている。中東や中国の化学メーカーは安い原料を使える点が有利だ。日本メーカーの活路は成長性の高い事業をどれだけ育てられるかにかかっている。
素材産業の再編の狙いはこれまで、規模拡大によって製品の値上げ要求を通しやすくしたり、物流や生産の合理化を進めやすくしたりすることだった。三菱ケミカルを生んだ1994年の三菱化成、三菱油化の合併もその例にもれない。
価格の安定やコスト削減を狙った再編でなく、新たな収益源を獲得しようというのが三菱ケミカルによる三菱レイヨン買収の動きだ。最近では日立製作所が蓄電池や情報事業などを強化するため、上場子会社5社の完全子会社化を決めた。
景気も最悪期を脱しようとしている。企業は成長力を取り戻すためM&Aをいとうべきではない。
三菱ケミカルと三菱レイヨンは資本関係がないが、1950年に分割されるまで同じ会社だった。日立の再編も取り込んだのは子会社だった。競争力を高めようと考えるなら経営者は、グループの枠を超えたM&Aにも踏み出すべきだ。
世界シェアが高いほど優位に立てる流れはますます強まっており、規模の拡大は競争力向上で今後も有効な戦略だ。製品や事業ごとに経営者の判断が一段と問われる。