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山登りをしていた昔、よくラジオの気象情報を聞いて天気図をつくった。多くの観測地点から届くデータを図に落とし、等圧線を書き込んでいく。長い夏山登山では、デンと構えて好天をもたらす太平洋高気圧が頼もしく見えたものだ▼その夏の主役が、今年は調子を上げてこない。東京は夏らしく晴れる日がない。東北は梅雨明けの発表もなく立秋となった。日照が足りず農作物にも影響が出ている。低迷する4番打者を見るような、もどかしさが募る▼そこへ台風の接近である。きのう、通勤途上に仰いだ空は墨を流したように暗く、大粒の雨が銀の矢となって降りしぶいた。兵庫や岡山県では10人以上が亡くなり、行方の分からない人もいる。被害は東日本にも広がっている▼お天気博士の倉嶋厚さんが、「人間は大気の海の底に住む海底動物」だと書いていた(『暮らしの気象学』)。言い得て妙である。大気中の自然の営みが、炎暑や寒波、豪雨や竜巻などとなって、人の住む「海底」におりてくる▼たとえば、しとしと降る雨は、毎秒数センチというゆるい上昇気流がつくる雲から落ちてくる。だが集中豪雨は、毎秒数メートルもの激しい上昇気流が水蒸気を運びあげて、叩(たた)くように降る。「4番打者の低迷」にしても、大気の営みを変える力は人間にはない▼「60年住んでいて初めて」と驚く被災地の声をテレビが報じていた。乱調の夏に、きのうまでの無事が今日の安全を保証してくれないことを肝に銘じたい。自然のサイクルもまた、人間の時間をはるかに超えて長大である。