いま、北朝鮮は「強盛大国」を目指して突っ走っています。それには低迷する経済の立て直しと権力の継承が課題ですが、できるでしょうか。
金正日総書記の笑顔をしばらくぶりに見ました。先に平壌でクリントン元米大統領と会談した際の写真です。
金総書記は、国家目標である「強盛大国」を故金日成主席生誕百年の二〇一二年までに達成すると大号令をかけています。
それには外的要因として最大の脅威である米国の体制保証と「核保有国」認知が必須です。
◆「強兵」はできたが
そんな中、核実験を非難する国際的な包囲網に大穴を開け、超大物を呼びつけ、米朝直接交渉の糸口をつくりました。「してやったり」が顔に出たのでしょう。
「強盛大国」−金総書記が十年ほど前に提唱した北朝鮮版「富国強兵」策。いまの北朝鮮を読み解くキーワードです。
「わが方は領土も人口も少ないが、政治、軍事的には堂々たる強国という自負心を持っている」
四、五月の核実験や弾道ミサイル発射により「軍事強国」となり、「革命の首脳部を決死擁護」し、社会主義を守る「政治・思想」強国の方も達成という認識です。
「わが党は、人民生活向上を活動の最高原則として掲げ…」
金総書記もよく認識しているように慢性的な食糧とエネルギー不足、民生経済は破綻(はたん)寸前です。
いま全国民を総動員しての生産活動の拡大競争「百五十日戦闘」(四〜九月)はそのためです。先月には「食糧・日用工業省」の新設も決めました。
◆核と「富国」は矛盾
その一方で、金総書記の国家運営の基本は「軍事優先」。施政方針である元日の「共同社説」は「国防工業発展に必要なすべてのものを最優先に」(二〇〇九年)と指示しています。
特に核・ミサイルはカネ食いです。「今年前半の開発・実験費用は七億ドル(約六百七十億円)」と韓国国防当局は推計します。
ちなみに三億ドルで、北朝鮮のコメの年間不足量百万トンを買うことができるそうです。
民生経済立て直しには、国民の尻をたたくだけでは限界があります。相応の資金、技術、人材の投入が必要ですが、軍事優先政治の中で可能でしょうか。
さらには、核実験などで国際社会の経済制裁を招き、周辺国の支援は細り、外貨不足も深刻です。国力の現状から「強兵」を偏重すれば「富国」は無理です。
核を放棄しないで「経済強国」実現は難しい。はたまた、核を放棄すれば「強盛大国」の大黒柱を失うことに。北朝鮮が当面する最大の矛盾です。
そんな中、にわかに浮上したのが権力の世襲問題です。
「主体の血統は代を継いでしっかり継承され、発展している」
このところ、総書記自身も世襲を口にしています。昨年夏の病気以来、健康不安は写真で見るやせぶりでもよく分かります。
しかも得意の「現地指導」は、ことしに入って八十回を超えました。昨年同期の一・三倍。「自分も人間である。休みたいときもあるが、そうもできない」と無理を告白しています。
後継体制の準備は必至です。北朝鮮は公式に特定していませんが、周辺国メディアは三男の正雲氏(26)が有力、総書記に姿格好、性格が似ているからなどと報じています。
今回のクリントン氏訪朝は、国際的孤立を抜け出し、後継体制を確立するために、総書記の健在、威力を内外に誇示する一石何鳥もの狙いがあったようです。
しかし、三代続いての世襲、内外に難問を抱える国家の継承は容易ではありません。
「ポスト金正日」は集団指導体制という予測もありますが、独裁から合議制への移行が順調に進むとは思えません。
それに独裁体制は、緊張をつくることによって、国内で求心力を高め、外交で主導権を握ろうとする性癖があります。こうした不自然な国家運営は、いつか限界がくるはずです。
「強盛大国」の建設期限まであと三年。さまざまな混乱の要因もチラチラします。
◆「危機管理」の備えも
周辺国としては、対北政策について、外交だけでなく軍事挑発や混乱による難民流出など危機管理の備えも要りそうです。
わが国では総選挙たけなわ。各党がマニフェストを出しました。拉致問題解決も含めて対北政策をどうするのか、もう少し補強するよう要望しておきます。
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