パワフルな歌声で一九六〇年代にヒット曲を連発しながら、芸能界からひっそり消えた女性歌手がいる。売れっ子になりスケジュールが忙しくなると、「疲れが取れる」と覚せい剤を勧められた。使ってみると手放せなくなった▼常習者の汗はしょっぱい味がしないという。何度か服役も経験した。「体を柱に縛り付けるぐらいしないとやめられない」と自力で社会復帰する困難さを語ってくれた▼覚せい剤の乱用の歴史は、実は戦争と関係が深い。軍隊で不眠剤などに使われていた備蓄品が戦後、大量流出。敗戦から十年ほど後の荒廃した社会に「ヒロポン」が大流行した▼七〇年代後半からは、暴力団が資金源とし、一般市民を巻き込む形で広がっていった。最近は、中高生がファッション感覚で乱用するケースが増えた。インターネットや携帯電話による取引も増え、違法な薬物はすっかり身近な存在になってしまった▼覚せい剤取締法違反容疑で逮捕された女優の酒井法子容疑者は、麻薬撲滅キャンペーンにも出演していた。裏切られたという思いのファンも多いだろう。芸能界復帰は難しいかもしれない▼人気女優であり続けることの重圧が背中を押してしまったのだろうか。入手経路や夫に勧められて拒まなかった理由も正直に話し、薬物依存の恐ろしさを伝えてほしい。それが、あなたの贖罪(しょくざい)の道なのだから。