2011年7月24日に予定されている地上放送の完全デジタル化まで2年を切った。地デジ受信機の世帯普及率は6割を超えたが、集合住宅など約1千万世帯はまだ電波自体を受信できない状況だ。「地デジ難民」を生まないために、残された時間内で受信対策を急ぐ必要がある。
地デジを見るには受信機のほかに専用のアンテナが要る。集合住宅は地デジ対応の共聴施設が必要だ。電波の世帯カバー率はすでに97%を超えており、今後は送信設備よりも受信者側の対策が重要になる。
特に対策が必要なのは集合住宅やビル陰など電波障害で共聴施設を利用している世帯だ。集合住宅の共聴施設は全国で約200万件(約1900万世帯)あるが、対応した施設は7割程度。約5万件(約600万世帯)ある障害対策用共聴施設ではまだ1割しか対応していない。
戸建て住宅ならアンテナを立てるだけだが、共聴施設は関係者全員の了解が要る。特に古い集合住宅では引き込み線が使えず、外壁などに新たな配線工事が必要だ。費用は誰が負担するのか、責任者は誰か、管理組合で協議しなければならない。
デジタル波はアナログ波に比べ混信が少なく、電波障害が解消する場合もある。しかし山間部などで中継局が建設されず、受信できない家が約35万世帯残る見通しだ。そうした地域にはインターネットや衛星などによる難視聴対策が必要だ。
政府は経済対策でエコポイントなど地デジ対策に約3600億円をつぎ込む計画だ。特に学校や福祉施設などへの対応が急がれる。総務省は相談窓口の「デジサポ」を全国に設け、約4千人を配置したが、今後は自治体の協力も必要だろう。
デジタル化の狙いは音楽や映像がデジタル化する中で放送もそれに合わせるためだ。電波の帯域も大幅に減るため、周波数を携帯電話など新しいサービスに転用できる。北欧やドイツなどは移行を終えた。
6月にデジタル化した米国では約280万世帯が未対応だったが、希望者にチューナー購入券を政府が無料で配ったため、大きな混乱はなかったという。日本は高齢者世帯が多いだけに、期限までに未対応世帯をゼロにする知恵が問われている。