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〈好きなもの イチゴ珈琲花美人 懐手して宇宙見物〉と言った物理学の寺田寅彦が、病気でコーヒーを1年以上飲めなかったことがある。久しぶりに味わうと、カフェインのためだろう、まわりの様子が違って見えた▼なぜか愉快で仕方なく、世の中が祝福と希望に輝いて見えた。気がつくと手にじっとり脂汗を握っていたそうだ。「人間というものはわずかな薬物によって支配されるあわれな存在である」と、科学者らしい随想を残している(「コーヒー哲学序説」)▼嗜好品でそれだから、覚せい剤の支配力は計り知れない。この人も「あわれな存在」だったのか、タレントの酒井法子容疑者(38)が覚せい剤所持の疑いで逮捕された。清楚な花が、くたりと散った印象である▼〈失跡を逃亡にする逮捕状〉と昨日の朝日川柳にあった。さらに潜伏だの出頭だのという言葉にまみれて、偶像(アイドル)は堕ちた。裁判員制度の広報映画で主役を演じてもいた。だが事件がこのまま進めば、彼女が座るのは被告人席ということになる▼近年、覚せい剤を「スピード」や「S」などと軽く呼ぶそうだ。背徳的な注射ではなく、あぶって煙をストローで吸う。罪悪感を弱める錯覚の魔手に、からめ取られる人が少なくない▼10年ほど前、ある芸能人が覚せい剤で逮捕された。裁判で、「捕まってよかった。これでやり直しがきく」と述べていたのが記憶に残る。何度もやめようとしたが出来なかったのだという。この薬物の恐ろしさである。酒井容疑者の胸にいま、何が去来しているのだろうか。