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天声人語

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2009年8月9日(日)付

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 車いすに座った小幡悦子さん(80)の足は「くの字」に曲がり、えぐれた太ももは引きつっている。64年前のきょう、爆心から1キロで被爆した。辛うじて生き延びたが、原爆は容赦のない爪跡(つめあと)を体に残した▼昨年、朝日新聞長崎総局の取材を受けた。ためらいながら「足の写真を撮らせてほしい」と頼む記者に、小幡さんはうなずいた。「この足が原爆だから……。私が伝えられるのは足だけだからね」。つらく、重い言葉である▼小紙の長崎県版で、若い記者たちが去年の夏から、毎日欠かさず被爆者の聞き書きを載せている。それをまとめた『ナガサキノート』(朝日文庫)を読んだ。語られる事実に圧倒され、そして鍛えられる記者の姿が、記事の向こうに透けて見える▼自分たちは何も知らないのではないか、が出発点だった。原爆忌が過ぎると潮が引いたようになる報道への自省もこめた。「あの日から苦しみは一日も止(や)んだことはない」。それが取材を通して得た実感の一つだという▼広島で被爆した政治学者の丸山真男が、かつて語っていた。「今日に至っても原爆症患者が生まれつつある、長期患者が死んでいる……いわば毎日原爆が落ちているんじゃないか」と。その現実は今も変わっていない▼丸山はまた、これまでに語られたことは実際に起きたことの何十万分の一ではないか、とも言っていた。語られたことを胸に刻みつつ、長崎で広島で「黙されたこと」のいかばかりかに思いを致したい。核兵器の残虐が、膨大な沈黙への想像からも浮かび上がってくる。

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