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裁判所の中は自由に撮影できないため、法廷スケッチという芸術が生まれた。法廷画家たちは大衆の興味に応え、裁かれる者をアップで描くのが常だ。彼らが、匿名の一般人にこれほど筆を走らせたことはない▼東京地裁で開かれた初の裁判員裁判。小紙にも連日、いけだまなぶ氏の達者なイラストが載った。番号で呼ばれ、絵で歴史に刻まれた裁判員たちは、懸命に大役を果たしたように見える▼初日のくじ引きには、呼び出された49人のうち47人が集まった。法廷で初めて口を開いたのは白ブラウスの4番。歴史的な質問は「えーと」で始まり、証言と調書の違いを問う真っ当な内容だった。被告には6人全員が質問し、判決後の会見にも応じた▼近隣トラブルの殺人は事実関係に大きな争いがなく、殺意のほどが問われた。検察官や弁護士は、ちんぷんかんぷんの「裁判語」を封印し、主張の売り込みに努めた▼途中、3番の女性が風邪で欠け、男性が7番で補充された。さほど複雑でない事件、きちんと協力する市民、さらにはハプニングまで、裁判所が教科書に載せたくなるような首尾である▼とはいえ、重い罪を軽く裁けるものではない。素人だからこそ、裁判員はあいまいな証言に困惑し、遺族や被告の肉声に揺れた。「仕事とは違う疲れ方でした」と吐露したのは6番の男性だ。ぼかした法廷スケッチとは裏腹に、言い渡す刑が重いほど、自ら裁いた記憶は深く残ろう▼裁判に市民感覚を採り入れる試みが始動した。整然と、しかし「X番さん」の苦悶(くもん)を予感させて。