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春秋(8/6)

 物理学者の中谷宇吉郎に「原子爆弾雑話」なる随筆がある。終戦直後の一文だ。地球の創世以来「堅く物質の窮極(きゅうきょく)の中に秘められていた恐るべき力」を解きはなった愚を彼は嘆く。「開けてはならない函(はこ)の蓋(ふた)を開けてしまったのである」

▼「文芸春秋」1945年10月号に載ったエッセーだから、核兵器の誕生を「パンドラの箱」の神話になぞらえた最初の指摘かもしれない。自然への畏敬(いけい)の念が深く、すぐれた文筆家でもあった中谷は痛恨の思いでこれを書いたのだろう。その夏から64年。原爆忌のヒロシマがたたずむ地上はなお脅威に満ちている。

▼それでも、かつて「開けてはならない蓋」を開けた米国でオバマ大統領が「核なき世界」を唱え始めたことに一筋の光明を見いだそうか。この訴えはしかし、拡散する核への底知れぬ恐怖の裏返しでもあろう。もし、それがテロリストの手にでも落ちれば私たちは未来を失いかねない。危機は差し迫っているのだ。

▼「米英両国以外でも間もなく色々な型の原子爆弾が出来る」と中谷は看破しながら、こう結んでいる。「それが地球上を縦横にとび廻(まわ)る日の人類最後の姿を想像することは止(や)めよう」。飛び出した災厄を人類は元の箱に戻しうる。そんな祈りをこめていたのだろう。祈りを受け継ぎ、決意に変えなければならない。

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