政府の「安全保障と防衛力に関する懇談会」(座長・勝俣恒久東京電力会長)の報告書は、日本をとりまく安全保障環境に直視した問題提起を含んでいる。
政府が年末にまとめる防衛計画の大綱の材料となる報告書である。どんな政権であれ、これらの提起を正面から受け止めざるを得ない。
報告書は、集団的自衛権をめぐる憲法解釈の変更、武器輸出三原則の緩和などを求める。日本の安全保障にとって不可欠な日米同盟の深化とともに、国際協力の質と量の充実のためとされる。私たちが指摘してきた問題意識とも共通する。
集団的自衛権の解釈変更は(1)米国に向かうミサイルの迎撃(2)共同活動中の米軍艦船の防護(3)国連平和維持活動(PKO)での他国の要員の警護(4)PKOに参加する他国への補給などの後方支援――などを可能とするためとされる。
日本のPKO参加数は主要国のなかで最低とされる。このため報告書は「他のG8諸国等と並ぶ応分の努力」を求める。
報告書は武器輸出全般について抑制的な方針の堅持を主張する。しかし現行の武器輸出三原則は最先端技術の獲得や日米防衛協力を妨げる面があるとし、見直しを求める。国際共同開発への参加で最先端技術を得るのは必要である。
安全保障政策のあり方は、政治的ではあるが、それが前提とする国際情勢は、日本の政権の枠組みの変化に影響される部分は、そう多くはない。日本周辺およびグローバルな情勢を現実的に分析すれば、懇談会の報告とおおむね似た内容になる。
1993年に発足した非自民の細川政権は、防衛計画の大綱をまとめる材料づくりのために同様の有識者懇談会を設置した。懇談会は羽田政権を経て、自民、社会、さきがけ3党連立による村山政権に報告書を提出し、村山政権の手で新たな防衛計画の大綱ができた。
安全保障のために何を考え、何をすべきかは本来は党派的な作業ではない。右の例はその証明になる。30日の衆院選挙の結果、どのような政権ができても、この報告書を材料に党派を超えた議論がなされ、新たな大綱ができるのが望ましい。