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この時期に曇天が続くと、どうにも落ち着かない。五感に染み込んだ日本の8月といえば、青空、蝉(せみ)しぐれ、かき氷。そこにはいつも、追憶の香煙が薄くたなびく▼「八月の空がまぶしく、かつ青ければ青いほど、なぜか戦争への思いが深まります。八月の空と海。父の愛した空と海が、ともに青く澄みつづけるように、二度と惨劇の舞台にならないように、と願うばかりです」▼『城山三郎が娘に語った戦争』(朝日文庫)で、亡き作家の次女井上紀子さんはそう記す。皇国を信じ、裏切られた。海軍体験に根ざした城山さんの反戦思想は筋金入りで、とりわけ非道の極み、自爆攻撃の特攻を憎んだ▼沖縄の海に散った22歳の慶大生が、出撃前夜にしたためた一文から引く。「権力主義の国家は一時的に隆盛であらうとも必ずや最後には破れることは明白な事実です……明日は自由主義者が一人この世から去つていきます。彼の後ろ姿は寂しいですが、心中満足でいつぱいです」▼死を前にこれほどを書き残せる若い知性が、何千何万と理不尽な最期を強いられた。この遺書を著作で紹介した保阪正康さんは、「日本の戦時指導者への最大の告発のように思えてならない」と断じている▼忘れてならない魂の叫びは、世界に散らばる。『アンネの日記』が先日、人類が残すべき史料としてユネスコの記録遺産「世界の記憶」に登録された。そのユダヤ人少女が、隠れ家から強制収容所へと連行されたのは65年前のきのうだった。国を問わず、有名無名の生を記憶に刻み直す夏である。