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クリントン訪朝―これを危機打開の糸口に

 いきなりの大物の登場である。クリントン元米大統領が電撃的に平壌入りし、金正日総書記と会談した。

 オバマ大統領のメッセージを口頭で伝えたようだ。内容は不明だが、会談で両氏は「共同の関心事について幅広い意見交換を行った」という。

 訪朝の狙いはまず、北朝鮮に抑留されている米人記者2人を解放させることにあるのは間違いない。

 2人は今年3月、中朝国境で取材中に不法に北朝鮮に入ったとして拘束された。経緯に不明な点も多く、人道問題でもある。早い解放が望まれる。

 それ以上に、双方ともこの訪朝を局面を転換する機会にしようという意思がうかがえる。米政府が訪問を確認していない段階で、北朝鮮メディアはいち早く到着を伝えた。

 米国としても、緊張を一方的に高める北朝鮮に手を出しあぐねていた状態を脱するきっかけにできる。オバマ政権の発足後やっと米朝の対話の窓口が開かれたことは歓迎したい。

 予兆はあった。北朝鮮は記者2人に12年の刑を科しながら、招待所での軟禁にとどめているという。弾道ミサイルと核の実験を相次いで強行した後は危機演出を抑えてもいる。

 米政府も、2人の拘束を非難して北朝鮮を刺激するのは避け、恩赦を求めて早期解放を促す戦術をとった。さらに核放棄と米朝関係正常化、経済支援を組み合わせた北朝鮮問題の包括的な解決策を、新たに提案する用意があることも繰り返し発信し始めた。

 そんななかニューヨークでの水面下の接触で元大統領訪朝が決まった。

 94年にカーター元大統領が平壌で金日成主席と会談し、当時の核危機を抑える米朝合意を導いたことがある。

 今回は正式の特使ではないので、公にはできないかもしれないが、解放交渉の一方で、核問題や米朝関係で双方の腹を探り合ったはずだ。

 健康不安が深刻な金総書記は後継の態勢固めを急いでいよう。それには対米関係の改善が欠かせず、直接交渉での打開を狙っていると思われる。

 この訪朝がどんな成果を生み出すのか、米朝の本格交渉につながるのかはまだ不明だ。しかし、核をめぐる6者協議が動かないいま、仕切り直しの契機をまず米朝間で見いだせないか。

 ただし、米国に考慮してもらわねばならないこともある。

 核やミサイルとともに拉致問題を抱える日本では、政府内にも米国の先走りを警戒する声がある。韓国も、北朝鮮の開城工業団地で韓国人が拘束されたままになっているなど、膠着(こうちゃく)した南北関係に苦しんでいる。

 事態を動かす糸口を米朝で探りつつ、米国は日韓とのすり合わせに努めてほしい。次の展開も意識し、中ロとの連携を強めることも大切だ。

安保懇報告―憲法原則踏まえて論戦を

 日本の安全保障をめぐる環境は激変しており、それに応じて防衛力のあり方を変えなければならない。専守防衛の原則にも整理が必要だ――。

 こんな内容の報告書を、政府の「安全保障と防衛力に関する懇談会」がまとめ、麻生首相に提出した。

 日本はどんな防衛力を持つべきか、その基本方針を定めた「防衛計画の大綱」を、政府は年内に改定する予定だ。この報告書はそれに向けて有識者の意見を聞いたものだ。

 もっとも、今月末には総選挙が行われ、政権交代もありうる。報告書は自民党の防衛政策と重なる点も多く、民主党政権になれば棚上げにされる可能性も大きい。

 報告書でまず目を引くのは、北朝鮮の弾道ミサイルに対応するためとして集団的自衛権をめぐる解釈の見直しを求めたことだ。

 具体的には▽北朝鮮から米国に向けて発射されたミサイルを、日本の自衛隊が迎撃できる▽ミサイル警戒にあたる米軍艦船を、日本が直接の攻撃を受けていなくても防護できる。この2点に道を開くべきだという。

 軍事技術の高度化で、従来の法的概念では対処しにくい問題が生じてきたのは確かだ。ただ、現在の技術の限界も含めて現実に即して運用を論議すべきであり、憲法上、行使できないとしている集団的自衛権の問題と関連づける必要があるとは思えない。

 より問題なのは「専守防衛」の原則について、その意味を明確にし、できることとできないことを整理すべきだと指摘した点だ。

 専守防衛の「語感」が、日本防衛のためにどんな装備体系や部隊運用が必要かを自由に議論する妨げになっているというのが理由だという。これはあまりに短絡な主張ではないか。

 専守防衛は、憲法9条のもとで自衛隊を持つにあたって、ゆるがせにできない原則である。報告書は「先制攻撃は憲法で禁じられているという基本は押さえつつ」としているが、自衛隊の果たせる役割を拡大したいという考え方だろう。ならば、どう広げるのかを具体的に指摘し、専守防衛原則との整合性を厳密に論じるべきだ。

 また、兵器の国際共同開発に日本企業も加われるよう、武器輸出3原則の緩和を提言した。防衛産業のビジネス拡大が絡む話だ。だが、平和国家としての日本のソフトパワーが損なわれるデメリットは小さくない。

 報告書を受け取った麻生首相は、防衛に対する自民党の責任感を強調した。一方の鳩山民主党代表は「政権をとったら我々の視点で見直す」と述べた。だが、政権選択の総選挙で、安全保障政策があいまいなままではならない。憲法原則を含め、民主党の考えをはっきり聞かせてもらいたい。

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