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天声人語

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2009年8月4日(火)付

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 ふんどしの上に水泳パンツを重ねて世界記録を連発した人である。古橋広之進さんは「水着争い」に冷ややかだった。客死の地となったローマの世界選手権を境に、高速水着に歯止めがかかるかもしれない。トビウオ80歳の遺言にも思える▼食べるのが精いっぱいの戦後、日大水泳部の主食はスイトン、マメカス、トウモロコシで、コメは1升を30人分のおかゆにした。交代で農家を回り、買い出したイモの半分を闇市でさばいてやりくりしたという▼戦中、防火用水に使われたプールの水は濁り、藻がわいていた。敗戦で打ちひしがれ、飢える国民はスポーツどころではない。だからこそ皆、古橋さんの快挙に歓喜し、勇気づけられた▼1949(昭和24)年に招かれた全米選手権。占領軍を率いるマッカーサー元帥は「徹底的にやっつけろ。それがアメリカ人への礼儀だ」と励ました。圧巻は初日の1500メートル自由形予選だった。A組で僚友の橋爪四郎さんが世界新を出す。30分後、B組の古橋さんはそれを17秒近く縮めてみせた▼「日本のプールは短い」「時計がのろい」といった陰口は消え、反日感情が尾を引くロサンゼルスの空気は一変した。当人は「フェアな一面に接し、私たちも彼らに対する認識を大いに改めた」と回顧している▼同じ年、日本は湯川秀樹博士のノーベル賞にもわいた。スポーツで科学で、再び世界と競える喜び、分かり合う幸せ。国際社会復帰への自信は、経済大国へと引き継がれる。裸一貫での再出発にふさわしい、時代が欲したヒーローだった。

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