自民党がマニフェスト(政権公約)を発表した。景気回復を最優先に政策継続のメニューを並べたが、閉塞(へいそく)感や国民の不満を招いた四年間の政権の総括がおざなりだ。それでは説得力も宿らない。
記者会見に臨んだ麻生太郎首相は「他党との違いは責任力だ」とアピールした。現実味を帯びつつある「政権交代」阻止へ、自民が打ち出したマニフェストは、民主党の存在を意識した内容だった。
子ども手当など家計への支援策を重視した民主マニフェストに対抗する形で、幼児教育の無償化などを明記した。一方、ソマリア沖での海賊対処法案に民主が反対したことに絡んで「意見集約できない党に日本の安全を任せられない」と批判した。
政権党の自民がマニフェストの中に、民主批判の文言を盛り込んだのは危機感の裏返しだろう。なりふり構わずに民主の政権担当能力に疑問符をつける−。自民の衆院選戦略の一端がうかがえる。
目玉公約は「大胆かつ集中的対策」を柱にした経済成長政策で、家庭の手取りを百万円増やすというものだ。ただ実現は十年後。衆参議員総定数の三割以上削減も十年後だ。任期四年を超える話で大盤振る舞いされても、有権者はまゆにつばを塗るのではないか。
「責任政党」の証しと位置づける消費増税については「二〇一一年度までに法制上の措置を講じ経済状況の好転後に実施」と、明確な実施時期をぼかした。
自民に欠けているのは、前回衆院選以降、四年四代の政権がやってきたことの総括である。小泉構造改革の陰で格差は拡大し、地方は疲弊を極めた。その手当てもそこそこに、民意を問うことなく政権がたらい回しされたことに世間の怒りが充満しているのだ。
首相も反省を口にするなら、改革のひずみに正面から向き合い“病状”を診断した上で処方せんを講じるべきだ。「行きすぎた市場原理主義とは決別する」と力説したとはいえ、政策転換したのかどうかがはっきりしないままだ。
けじめもなしに「日本を守る、責任力」とキャッチフレーズを掲げても、有権者の心には響くまい。麻生政権の迷走続きで自民こそ政権担当能力が疑われている現実を甘く見てはいけない。
まだ時間はある。各党が発表したマニフェストには、詰めを要する部分が少なくない。論争を通じ問題点も出てこよう。
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