予約は3カ月先までいっぱい。週末の夜に出航する、意外な船旅が東京湾で人気だ。1時間半ほどかけて海沿いの工場の夜景を眺めるという、これまでにない趣向である。
この旅を体験した。横浜市の観光スポット・赤レンガ倉庫の桟橋から出航し、京浜工業地帯の中の運河を進む。両側に重化学工業などの工場が連なる。
巨大プラントの照明が輝き、海面に映える。ライトアップされたタンクや倉庫は闇に浮かぶ。10キロほど航行した川崎市沖では、羽田空港発着の航空機の明かりが彩りを添えた。
もともと旅客船は通らない航路だ。昨年6月の運航開始の際には、乗客が集まるのか疑問視もされた。だが、陸上では近づきにくい大規模工場も、海からは間近だ。普段見られない光景が魅力で、予想以上の人気となった。
まさに隠れた地域資源の掘り起こしといえる。川崎市なども同様の船旅を企画し、ちょっとしたブームの様相だ。この成功で思い浮かぶのが、倉敷市の水島工業地帯である。巨大工場群の幾何学的デザインには、ある種の美しさがある。
実際、地元の玉島商工会議所などが水島の工場群を眺める船旅を今秋に計画している。とりあえず夜景ではなく昼間の運航で、観光庁の支援事業にも採択された。地域にはまだまだ多くの宝が眠っている。