自民党が衆院選に向けたマニフェスト(政権公約)を発表した。安心、活力、責任の3分野を掲げ、経済成長戦略を軸に政権党としての「責任力」を訴えようとするものだ。
消費税引き上げにも言及して民主党との違いを打ち出す姿勢をみせる一方、競合する政策での優位性をアピールしている。だが、民主党に先行されての「後出しじゃんけん」にしては具体性が不足し、説得力に欠けると言わざるを得ない。
麻生太郎首相(自民党総裁)は記者会見で、最大の優先課題は「景気対策だ」と述べた。マニフェストでは「大胆かつ集中的な経済対策」を続けて2010年度後半に経済成長率2%を実現し、11年度から持続的で安定的な成長路線に復帰させるというシナリオを描いている。
女性や高齢者の労働参加により10年で家庭の手取りを100万円増やし、1人当たり国民所得を世界トップクラスに引き上げることを目指すと明記。景気回復を果たすことで「5年を待たず」に国と地方の基礎的財政収支の赤字を対国内総生産比で半減させる方針を示した。
経済成長戦略や財政再建に踏み込むことで、中長期の成長戦略を示していない民主党の公約を批判し、違いを強調する狙いが見て取れる。
だが、「10年で」とか「5年を待たず」など、衆院議員の任期4年では検証困難な目標設定が目立つ。政権公約で「工程表」を示した民主党が「こういうのはマニフェストとは呼べない」(鳩山由紀夫代表)と批判したように、あいまいさや具体的な政策の裏打ちに欠けている点は否めまい。
少子化対策として今後3年間で幼児教育の完全無償化などを挙げ、民主党の掲げる子ども手当などに対抗しているが、その財源には触れておらず、かえって民主党を「ばらまき」と批判した根拠がかすむ面もある。
消費税引き上げについても「経済状況の好転後遅滞なく実施」としてはいるが、時期や上げ幅は示せていない。
自民党の公約の大枠は、これまで麻生政権が進めてきた政策をあらためて提示し、国民の信を問うということだろう。そのためにはより具体的な工程と手法を明確に示す必要がある。
主要各党の公約がほぼ出そろった。その内容を国民に直接訴えていくのはこれからだ。政権を争う両党は、票目当てのばらまきに終わることがないよう、政策のビジョンと道筋をさらに強化し、競ってもらいたい。