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天声人語

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2009年8月2日(日)付

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 留守中、故郷は早春から盛夏になった。137日と15時間の精勤を終え、地上の人に戻った若田光一さん。日本の実験棟を完成させたほか、宇宙に長逗留(ながとうりゅう)する影響を調べ、結果を体というカプセルで持ち帰った▼たわしのように伸びていた髪を整え、飛行士は「ハッチが開いて草の香りが入ってきた時、地球に優しく迎えられた気がした」と語った。この惑星から長く離れた人だけにわかる「命の匂(にお)い」である。足取りは確かでも、45日間のリハビリが待つ▼泳ぎ疲れて水から上がり、わが身を持て余した記憶がよみがえる。「立つ」とは重い頭や胴を支えること、「歩く」とはそれらを支えたまま運ぶことだと知った。久々の重力は想像を絶する▼連続での宇宙滞在記録は、ロシアのワレリー・ポリャコフ氏が95年に達成した438日。火星行きを想定した実験だった。生涯で2年近く付き合った無重量の状態を、氏は「自然が作った最も柔らかいベッド」と表現した。離れて身にしむ寝心地に違いない▼医師だけに、宙に抱かれていると、血流や心臓弁の開閉までを探りとれたという。やはり自著によると、長期滞在を通じてより人間的になり、なぜか宇宙に関する夢をパタリと見なくなったそうだ。夢が現実になった証しだろう▼「宇宙から国境は見えない」。92年に飛んだ毛利衛さんの至言だ。若田さんがカメラの前で実証した通り、無重量の下では水と油も仲良く混ざる。優しい星の上で人類がそうなる日をふと思う。世界平和の夢、だれも見なくなる時代を引き寄せたい。

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