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宇宙飛行士の若田光一さんが、国際宇宙ステーション(ISS)での4カ月半に及ぶ長期滞在を終え、スペースシャトルで元気に帰ってきた。
地上から400キロの無重量空間で、ISSを運用してさまざまな実験をこなし、将来の宇宙活動に備えて身体の変化を調べるデータも取った。
日本の若者や子どもたちにも、その経験を存分に語ってくれるだろう。宇宙に住んでみた実感や、そこで試みた芸術作品づくりなどについて触発される人も多いに違いない。
日本の実験棟「きぼう」には若田さんの手で最後の施設が取り付けられた。02年の予定から大幅に遅れて、ようやく有人活動の拠点が完成した。
ISSは冷戦下の1984年、西側陣営の結束を示そうというレーガン米大統領の呼びかけで始まった。
日本の負担は、「きぼう」の建設に約5500億円、年間約400億円の運用費も合わせれば1兆円にのぼる。巨費を投じる以上、この施設を最大限に生かし、将来につなげることを考えなければならない。
全体でサッカー場ほどの大きさをもつISSには、すでに米国、ロシア、欧州の実験棟がある。「きぼう」は、この中でも最大規模、最新鋭となった。外で実験や観測ができるテラスもある。大いに実験の成果を上げてほしい。
アジア各国の研究者に利用してもらい、国際貢献にも活用したい。マレーシアの研究者との共同実験がまもなく始まる。広くアイデアを募り、積極的に進めよう。
だが、大きな問題がある。現在の米国の計画では、ISSの運用は6年後の2015年までで、その後は月面や火星の探査に重点を移す。来年には、ISSへの「足」になっている、老朽化したスペースシャトルを引退させる。残る「足」は、ロシアのソユーズ宇宙船と、日本が9月に打ち上げる無人補給機HTVになる。
これを含む宇宙開発について、オバマ政権は見直しを進めており、近く結論がまとまる見通しだ。その結果も見て、「きぼう」をこの先どう生かすのか検討が迫られる。米国をはじめ、ロシアや欧州との協議も欠かせまい。
その結論がどうなろうとも、「きぼう」の完成は日本の有人の宇宙開発の大きな節目だ。この機会に、日本の将来に役立つ宇宙開発とはどういう分野か、宇宙での大型の国際協力計画にどういう形で参加するか、しっかり練り直す必要がある。
アポロ11号の月面着陸から40年、当時は人工衛星すら持っていなかった日本も、ここまできた。
大変な財政状況の中で、日本の宇宙開発の目標をどう定めるか、大きな国家戦略の絵の中で考えたい。
日本の先住民族であるアイヌの人々に対する国としての取り組みが、ようやく動き出した。
「歴史の反省に立ち、先住民族と共生する社会に向けた政策づくりを」と政府の懇談会が提言したのだ。
国連が2年前に先住民族の権利宣言を採択し、日本の国会も昨年6月、「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」を全会一致で採択した。それを受けてのことだ。
北海道を中心に先住していたアイヌ民族は開拓が進む中、先祖伝来の土地を失い、移住や和人への同化を迫られた。戦後も「滅びゆく民族」といわれ、貧困と差別に苦しんだ。同化政策を進めた北海道旧土人保護法が廃止されたのはなんと20世紀末の97年だ。
懇談会報告は「国の政策として近代化を進めた結果、先住民族であるアイヌの人びとの文化は深刻な打撃を受けた」「国にはアイヌ文化の復興に配慮すべき強い責任がある」と明言した。
さらに「先住民族との共生は、国の成り立ちにかかわる問題だ」とも指摘した。国民一人ひとりが心に留めるべきことではないだろうか。
これまでにも、アイヌ文化振興法などに基づく施策はあったが、民族の位置づけがあいまいだったため、福祉や文化面に限定された。北海道庁の調査では、道内のアイヌ人口は2万4千人弱だ。北海道大学の今年の調査では、アイヌの人びとの生活保護率は全国平均の2.5倍、大学進学率は半分だ。
アイヌの人びとは道外にも住んでいるが、日本全体で一体何人いるのかさえ分かっていない。政府が調査したこともないからだ。
差別や無関心は、次の世代でも新たな貧困と格差を生む。そんな悪循環は断ち切らなければならない。教育の場でも、アイヌ民族の歴史や現状をきちんと教えてきただろうか、と報告は問いかけている。
アイヌ叙事詩の「ユカラ」は世界的に知られ、古式舞踊はユネスコの無形文化遺産候補だ。アイヌ民族は国連の「権利宣言」の制定に大きな役割を果たし、その呼びかけで各国の先住民族のネットワークも生まれている。
報告は、先住民族としての土地・資源の利用についても「一定の配慮」を求めている。「アイヌ民族の日」の制定や、「民族共生の象徴」となる自然公園の整備も提言している。
まず国会で、先住民族としてのアイヌの存在を明確に認める法律をつくることだ。そのうえで政府とアイヌ代表が協議する場を設置し、対等な立場で今後の政策を話し合うようにすべきである。
先住民族が胸を張って活躍することで、国民全体が多様な価値観や文化を共有できる。こうした日本を早く築きたい。