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8月1日付 編集手帳

 朝、自宅のベランダで(せみ)を見つけた。腹を上に向けて動かない。コンクリートの上では土に返ることもできなかろうと、手にとって階下の地面に(ほう)った。と、指先を離れる瞬間、まだ息があったらしく、蝉は羽ばたいて視界から消えた◆〈来年の今日に()わないもののため(けやき)は蝉をふところに抱く 清水矢一〉。来年のきょうも木々は緑を茂らせているが、いま鳴いている蝉はもうそこにいない。短いその命は古来、はかないもののたとえとされてきた◆きょうから8月、広島と長崎の原爆忌があり、終戦記念日があり、多くの人にとって「命」の一語が胸を去ることのない季節である。月が替わり、聞く蝉の声にはひとしお胸にしみ入るものがあろう◆今年は選挙の8月でもある。公示日を迎えれば「ミーン、ミーン」が「民意、民意」と聞こえたり、「オーシツクツク」が「惜しい、つくづく」と聞こえたり、蝉たちの声もいくらかは時節の色を帯びて響くのかも知れない。いまのうちに、声を限りの絶唱に耳をすますとしよう◆飛び立つ瞬間の、腹部の振動が指先に残っている。命の鼓動とは(かな)しいものである。

2009年8月1日01時33分  読売新聞)
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