世界ウイグル会議のラビア・カーディル主席の訪日で中国は入国を認めた日本に批判を強めた。外交関係を波立たせるより、国際社会の理解を求め問題解決にウイグル側との対話も模索すべきだ。
カーディル主席は二十九日の記者会見後、米下院外交委員会に呼ばれ三十日、急きょ帰国した。
同主席を、七月五日に新疆ウイグル自治区のウルムチで起きた暴動の首謀者と非難する中国は日本に「強烈な不満」を表明した。
崔天凱駐日大使はメディアに暴動を日本の地下鉄サリン事件(一九九五年)に例え「事件の首謀者の訪問を他国が受け入れれば日本国民は反発するだろう」と指摘している。
しかし、カーディル主席の来日は、民間団体の招きによるもので政府は関与していない。
同主席は世界規模の「反テロ戦争」を展開している米国で亡命生活を認められている。米政府系の全米民主主義基金は世界ウイグル会議に資金も援助している。
中国は日本を厳しく批判する一方、同時にワシントンで開かれた「米中戦略・経済対話」で米国に、この問題を提起していない。
日本に対し、同主席をサリン事件首謀者と同列に扱うよう求めるのは無理があるのではないか。
同主席は記者会見で暴動への関与を否定し、デモに参加した一万人近くが行方不明になったとして当局に情報公開を求めた。
一方、中国はメディアに配ったDVDで、同主席らが計画的に暴動を起こす決定をしたと主張している。これらは外部から真偽を確かめる方法がないのが実情だ。
双方とも相手の批判にこたえる形で情報を明らかにすべきだ。
新中国建国前から続くウイグル民族自決運動は二十一世紀に最大規模の衝突を招いている。これまでの民族政策では反発が抑え切れなくなったとみる方が自然だ。
「抑圧があれば反抗がある」(毛沢東)の言葉通り、強硬路線一辺倒で問題が解決できるとは思えない。戦火を交わした者同士でも紛争終結に対話が必要だ。
日本での記者会見の最後に中国の「人民日報」の記者が立った。暴動経過についての問いに同主席も丁寧に答え双方、声を荒らげる場面はなかった。
小さな出来事だが、対話の可能性を感じさせた。中国、ウイグルの双方、国際社会も対話による解決の希望を捨ててはならない。
それが多くの犠牲を出した悲劇の再現を防ぐ唯一の道だ。
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