イラク北部クルド人自治区で行われた自治政府の議長選、議会選で、中央政府と対立する勢力が勝利した。石油をめぐる綱引きも激化しそうで、分裂を避ける和解努力が一層求められる。
選挙戦では、自治区の南近郊に位置する産油地域キルクークをクルド人自治区に編入すべきだとの主張が目立った。議長には、自治政府の権益拡大を主導してきた現職のバルザニ議長が再選された。直接選挙では初めてだ。議会選挙では、野党の躍進はあったものの、バルザニ氏のクルド民主党と中央政府のタラバニ大統領率いるクルド愛国同盟の統一会派が過半数を獲得した。
選挙直前の六月末、クルド議会はキルクークをクルド領とする新憲法案を独自に可決している。キルクーク周辺にはイラク全体の一割近い百億バレルの石油埋蔵量があるとされ、これをそっくりクルド側が支配することになる。イラク憲法はキルクークの帰属は旧フセイン政権によるクルド人の強制移住以前への復帰と、人口調査のうえ住民投票で決めると定めたが、連邦制を含め合意できてはいない。イラク議会とマリキ首相は当然ながら反発した。
クルド自治政府を勢いづかせているのは石油だ。マリキ政権は石油収入の公平な分配や外資との契約の在り方、権利を定めた石油法の審議を進めてきたが、これも合意できていない。ところがマリキ政権は、これまで無効としてきたクルドによる独自の外資との開発契約を黙認、六月には自治政府主導の輸出が始まっている。
これは原油価格の急落や、米軍の都市部撤退後のイラク治安部隊の拡大計画で中央政府が多大な財源を必要としたためで、石油収入の17%は自治区へ、70%は国庫へ入る取り決めだ。
イラクの石油は、イスラム教シーア派の多い南部とクルドの北部に多く、スンニ派の中央部には少ない。民族、宗派の違いとともに対立の火種だ。イラク・クルドの動向はトルコやイランなど周辺国境に住むクルド人を刺激し、隣国を警戒させるという複雑な背景もあわせもつ。
地方選を機にクルド人自治区と中央政府との亀裂を懸念した米国のゲーツ国防長官が急きょ、イラクを訪問、双方に和解を促した。イラクの未来はまずイラク人自身の結束にかかるが、石油でかかわりのある日本を含めた国際社会もイラクの挙国一致の前進を支援していかねばなるまい。
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