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7月30日付 編集手帳

 6歳の息子が二銭をせがんだ。友だちが皆、持っているのだろう、ヨーヨーが欲しいという。二銭あれば、キャベツが買える。「ヨーヨーなんてつまんねえぞう。じっきはやんなくなっちまあよ」と、母は諭した◆諭しつつ、心のなかでは泣いたのだろう。数十年の時が過ぎて、母は書く。これまで何ひとつ親にねだったことのない子が〈初めてねだったいじらしい希望であった〉と。吉野せいの随筆集「(はな)をたらした神」である◆一編一編が土のような、木の肌のような手触りで(つづ)られている。書棚の隅に埋もれさせていた一冊を久しぶりで手に取ったのは、麻生首相のおかげである◆せいは、福島県の山のなかで開墾と子育てに生きた。(くわ)をペンに持ち替え、遠い過去から糸を紡ぐように人生の断片を書き留めたのは、古希を過ぎてからである。活字になったのは74歳のとき、大宅壮一ノンフィクション賞や田村俊子賞を受けたのは75歳のとき、そして2年後に世を去った。高齢者は働くことしか才能がない――はずがない◆今年が生誕110年にあたることを、再読の書をひらいて知った。失言にも功徳がある。

2009年7月30日01時11分  読売新聞)
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