突然変異は生物進化の要因になると考えられている。もしやウィリアム・エリスという少年が犯した“反則”もそうだったのか▼一八二三年、英国のパブリックスクール、ラグビー校でのフットボールの試合中のこと。エリス君が突然、ボールを抱えて走り出した。そこからラグビーが始まった−。よく言われる話だが、エリク・ダニングほか著『ラグビーとイギリス人』によれば眉唾(まゆつば)らしい▼ラグビーとサッカーの共通の母胎は、十四世紀ごろから英国で行われていた民俗ゲームとしてのフットボール。街区を舞台に、ルール無用でボールを奪い合い、死者も出るような荒々しいものだった▼そのゲームはやがて、ボールを蹴(け)るのが主流になるが、十九世紀前半に、「持って走る」容認を確立したのがラグビー校だ。対して「持って走る」禁止を掲げたのがイートン校。両者の対立を軸に、二つの球技に分化したのだという▼歴史を繙(ひもと)いてみたのは、ラグビーW杯の二〇一九年日本開催が決まったからだ。関係者は大喜びだが、わが代表はW杯で過去一勝の実績しかない。代表ヘッドコーチの談話も少し引っ掛かる。「勇気ある決定だ」…▼“兄弟”ながら、そのW杯が「世界最大のスポーツの祭典」といわれるサッカーとは日本でも人気に大差がある。でも、応援者は増えるはずだ。何せ、ここは「判官(ほうがん)びいき」の国である。